酒場放浪記の吉田類さんは、肴に刺身が出て来ると、決まって「こうなると、やっぱりお酒ですね!」と言って日本酒を所望するのだ。
この「こうなると、やっぱりお酒ですね!」という感覚が、Gにはつい最近まで理解できなかった。
還暦を迎えるまでは、自宅で晩酌する習慣がなく、酒は嫌いではないけれど、仕事上のコミュニケーション・ツールぐらいにしか考えていなかった。もちろん、風呂上がりの一杯のビールがいかに旨いかは承知していたけれど、それは酒を嗜むと言うより、もっと即物的な快楽と言うものだ。
そんなGが、何が切っ掛けだったかすら覚えてはいないけれど、還暦を過ぎてから突然毎晩ビールを飲む様になった。最初は350ml缶一本だけだったのが、休みの日には「たまの休みだし…」と、もう一本おかわりをする様にもなった。
そんな折、酒場放浪記で吉田類さんが出身地土佐の「酔鯨」を旨そうに呑むのを目にした。また、同じ頃、何気なく眺めていたネットオークションでクジラ柄の有田焼の蕎麦猪口が目に止まった。
「クジラの蕎麦猪口で酔鯨を呑ったら、粋だねぇ!」
と思いついた。
こちとら江戸っ子じゃあねぇが、「粋」は何よりの好物だいっ!早速、クジラ柄の蕎麦猪口をオークションで競り落とし、返す刀で酔鯨の純米大吟醸を奮発したねぇ。旨ぇの、旨くねぇのって、そりゃおめぇ、旨ぇに決まってるじゃねぇか、コンチクショー!
と、言った具合に、Gは日本酒での晩酌を始めたのが満65歳と言う超遅咲きの酒飲みなのだ。
その後も、酒の銘柄を変えてみたり、蕎麦猪口を買い足してみたり、そして奥方に酒の肴ねだりながら、今日も晩酌を愉しむGなのである。